- 甲状腺機能低下症は、体に甲状腺ホルモンが不足している状態をいう
甲状腺機能低下症の原因
- 甲状腺機能低下症になる原因にはいくつかある
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橋本病
橋本病は、甲状腺に一種の炎症が起きている疾患です。炎症があっても甲状腺ホルモンの産生量は減っていないことが多く、その場合は体への影響はありません。十分に産生できなくなって、甲状腺ホルモンの不足が起こると、甲状腺機能低下症の状態になります。橋本病が原因で甲状腺機能低下症になった場合は、数か月で正常機能に回復することもあります。
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甲状腺の手術
甲状腺の腫瘍やバセドウ病の治療のために甲状腺を切除して、甲状腺ホルモンを作る細胞が減ってしまうと、甲状腺機能低下症になります。
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甲状腺のアイソトープ治療【放射性ヨウ素療法】
バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療法の一つに、放射性ヨウ素(131I)で甲状腺の細胞を減らす方法があります。放射性ヨウ素を飲むと甲状腺に集まって、甲状腺ホルモンを作る細胞が徐々に減ります。減りすぎると、甲状腺機能低下症になります。
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バセドウ病の薬
バセドウ病の治療のために服用する抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンの合成を減らす働きがあります。必要以上の量を飲むと甲状腺機能低下症になりますが、量を減らせば回復します。
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ヨウ素
ヨウ素を格別大量含む「昆布」を毎日のように食べ続けると甲状腺機能低下症になる人がいます。橋本病の場合にその傾向があります。
甲状腺機能低下症になっても、食べるのをやめれば元にもどります。また続けて食べなければ問題ありません。なお、わかめ、のり、ヒジキなど、昆布以外の海藻の場合は、毎日よほど大量に食べないかぎり甲状腺機能低下症にはなりません。(大量のヨウ素で低下症になる人がいる 項参照) -
先天性
母親の甲状腺になにも異常がなくても、3,000人に1人ぐらいが生まれつきの甲状腺機能低下症に罹っています。甲状腺が無いとか、甲状腺ホルモンを作る働きに障害があるなどが原因です。知らずにいると発育が悪く、知能も低くなりますが、生後早くから甲状腺ホルモンの服用を始めれば防げます。今はどこの産科でも、生まれて5日前後に赤ちゃんの採血をして、甲状腺機能低下症でないか調べます。甲状腺機能低下症と分かると治療を始めます。
このほかの原因で起こる甲状腺機能低下症は大変まれです。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症では
- 甲状腺機能低下症でなくてもみられる症状が多い。
- 軽いと自覚症状がないことが多い。
- 甲状腺機能低下症が著しいと認知症と間違えられたりする。
- 悪玉コレステロール(LDL-C)の高い原因になることがある。
甲状腺ホルモン不足 の症状
- 寒さに弱い、皮膚が冷たい
- 汗をかかない
- 始終眠い
- むくむ
- 食べないわりに体重が増加する
- 便秘する
- 皮膚が乾燥する
- 気力がない
- 物忘れがひどくなる
- すらすらしゃべれなくなる
- 声がかすれる
- 毛が抜ける
- 月経の量や間隔が変化する
体への影響
甲状腺機能低下症が続くと、動脈硬化の原因になる悪玉コレステロール(LDL-C)の濃度が高くなることがあります。また甲状腺ホルモンの不足が著しい場合は、心臓や肝臓の働きに影響したり、貧血の原因になったりすることもありますが、個人によって違いがあります。また甲状腺機能低下症が原因であれば、不足分のホルモンを補っていれば解消します。
なお程度にもよりますが、甲状腺ホルモンは、過剰よりは不足の方が体への影響は軽度です。
検査
- 甲状腺機能低下症かどうかは血液検査ではっきり分かる。
甲状腺が産生している甲状腺ホルモン(FT4)と、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血液中の濃度を調べます。FT3も調べることがありますが、その必要のないことも少なくありません。
TSHは、甲状腺を刺激してホルモンを出させる働きをしているもので、甲状腺ホルモンが不足すると濃度が上がり、多すぎると濃度が下がり、甲状腺機能の微妙な異常も知らせてくれます。FT4が基準値でも、本人にとってわずかでも低いと、濃度が高くなり、高いと下がります。
甲状腺機能低下症の治療
不足分の甲状腺ホルモンを飲むのが甲状腺機能低下症の治療です。
甲状腺ホルモンにはヨウ素が4つあるサイロキシン(T4)と3つのトリヨードサイロニン(T3)の2種類ありますが、甲状腺から分泌されるのは主にT4です。T4は甲状腺から分泌されてから肝臓などでヨウ素が一つとれてFT3になります。
甲状腺機能低下症の治療のために飲むのはT4(薬剤名:チラーヂンSなど)です。
甲状腺ホルモンは大変安価な薬ですし、副作用は滅多にありません。空腹のときに飲むとよく吸収されます。なおほかの薬と飲み合わせても危険なことが起こるということは一切ありません。ただし貧血に使う鉄剤、また胃腸薬、コレステロールを下げる薬のなかに吸収を多少悪くするものがあります。そこで飲む時には少なくとも4時間あける必要があります。これらの点については主治医や薬剤師さんに相談してください。
日常生活
著しい甲状腺機能低下症が続いたために、心臓に影響がでているような場合は、回復するまで活動を制限する必要がありますが、そうでなければとくに注意することはありません。
食事
特に注意しなければならないものはありません。
経過
図は、治療を始めてからの甲状腺ホルモンとTSHの濃度の経過です。TSHはFT4より遅れて基準値になります。FT4が基準値になってもTSHが高い場合は、TSHがあとから基準値になるためですが、このほかに、FT4が基準値内であっても、自分にとってわずかに低いとTSHは高くなります。なおFT4が基準値になってくると、次第に症状がなくなります。大抵は治療を始めて2-4週間もするとそれが感じられます。
だいたい3か月以内に丁度よい量が決まります。そうなれば正常な甲状腺の場合と変わりなくなります。甲状腺ホルモンの不足による臓器への影響も次第になくなり、成長期であればそれまで身長の伸びが悪かった分を取り返すことが期待できます。甲状腺機能低下症の薬は長期処方ができるので、通院の負担は軽くなります。
治療をしても改善しない原因で一番多いのは、薬の飲み忘れです。たまに忘れるぐらいなら影響ありませんが、始終不規則になるのは好ましくありません。なお適切な量をきちんと飲んでいてもとれない症状や、新たにでてくる症状は、ほかのことが原因です。
前にも述べたように、橋本病で起きている甲状腺機能低下症は、数か月のうちに治療がいらなくなることがあります。