甲状腺疾患と妊娠・出産|甲状腺と病気の正しい情報ならチーム甲状腺

甲状腺疾患と妊娠・出産

お子さんを持つ場合の気がかりは、以下のことではないでしょうか?

  • 病気が妊娠に影響しないのだろうか
  • 妊娠や出産で病気に影響がないだろうか
  • 病気が子どもに影響しないだろうか
  • 妊娠中の薬が子どもに影響しないだろうか

甲状腺機能に異常がなく、甲状腺ホルモンに過不足がない疾患は、妊娠・出産にあたって懸念するものはありません。
また治療が必要なものであっても適切な薬があります。丁度よい服用量の加減が重要ですが、これに知識と経験のある医師が関われば心配はいりません。ただし治療開始が遅れ過ぎると問題が起こる場合があります。
妊娠中に治療が必要なのは、甲状腺ホルモンが過剰に産生されるバセドウ病と、逆に産生が不足する甲状腺機能低下症です。

バセドウ病ではない妊娠初期の甲状腺機能亢進症

つわりの時期に甲状腺機能亢進症になって、甲状腺ホルモンが一時的に過剰になることがあります(甲状腺とその病気の項参照)。一般の妊婦さんの100人に2人ほどに起こります。原因は、胎盤が産生する絨毛性ゴナドトロピンです。これは妊娠を継続するためになくてはならないホルモンで、妊娠初期に最も高濃度になります。弱いながら甲状腺を刺激する作用があるために、濃度が非常に高くなる場合に、甲状腺機能亢進症が起こります。ただしその程度は軽く、治療をしなくても妊娠初期を過ぎると自然に軽快します。またお腹の赤ちゃんには全く影響ありません。

バセドウ病と妊娠・出産

妊娠中と産後の経過

  • バセドウ病は妊娠中に軽くなることがある。
  • 治った状態になっていても、産後に再発することがある。
  • 妊娠中も治療が必要だった場合は、産後にしばしば薬の量を増やす必要がでてくることが多い。
  • 再発や悪化は、産後6-7か月を過ぎると良くなったり軽くなったりする傾向がある。
  • 最終的には妊娠・出産をしたことがバセドウ病の病状に悪い影響を残すことはない。
  • 手術やアイソトープ治療でバセドウ病が治っていても、ごくまれに胎児が甲状腺機能亢進症になることがある。

治った状態になって妊娠した場合は、妊娠中に再発することはまずありません。
治療している場合も、妊娠が進むと自然によくなり、薬の量を早めに減らしたり中止したりできることがあります。

ただし良くなっていたようでも、産後は再発することがあります。
また再発ではなくて一時的な甲状腺ホルモンの過剰状態が起こることもあります(無痛性甲状腺炎の項参照)。これは産後の2-4か月ごろが一番多く、バセドウ病の再発と間違われることがありますが、自然に治るので、効果がなく副作用の危険もあるバセドウ病の薬は使いません。

出産まで薬が必要だった場合は、産後に薬の量を増やす必要がでてくることが少なくありません。ただし産後6-7か月がピークで、その後妊娠前ぐらいの状態にもどることが期待できます。
つまり妊娠・出産したためにバセドウ病の経過に悪い影響を残すことはあまりありません。

バセドウ病とまぎらわしい甲状腺ホルモン過剰

一般の妊婦さんの100人に2人ほどは、つわりの時期に甲状腺機能亢進症になって、ホルモンが過剰になることがあります(バセドウ病とまちがえられる病気の項参照)。
これはバセドウ病ではありません。程度はバセドウ病より軽く、妊娠初期を過ぎると自然に治りますので治療は要りません。またお腹の赤ちゃんには全く影響しません。

妊娠中と出産時に起こる問題

流産・早産

  • 甲状腺ホルモンの過剰は、流産や早産の原因になることがある。
  • 甲状腺ホルモンを正常にしておけば、流早産の起こる頻度は一般の女性と変わりない。

通常でも流産は10%以上の率で起こります。バセドウ病であるのを知らずにいたり、治療が不十分であったりして、甲状腺ホルモンが過剰のまま妊娠すると、流産や早産の率が一般の女性より高くなります。それを避けるためには、治療で甲状腺機能を正常にしてから妊娠することが必要です。

薬で甲状腺ホルモンを正常にすることは難しくありません。
血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になっていても流産したり早産したりした場合は、バセドウ病とは関係ありません。因みに流産の原因は、わからないことが少なくありません。

高血圧、糖尿病、甲状腺クリーゼ

甲状腺ホルモンの過剰が原因で血圧が上がったり、糖尿病のようになったりすることがあります。

バセドウ病の治療が疎かであった昔のことですが、出産のときに全身の臓器に障害を生じることがありました。これを甲状腺クリーゼと言い、熱が上がり、意識障害に陥って危険な状態です。幸いこれは今ではめったにみられなくなりました。

子どもの問題

形態異常(奇形)

  • 妊娠初期にメルカゾールを服用すると、時に子どもに特殊な形態異常が見られることがある。
  • メルカゾールは妊娠初期を除けば優れた治療薬である。

バセドウ病に使う2種類の抗甲状腺薬のうちメルカゾール(一般名チアマゾール)は、もう一方の抗甲状腺薬であるプロピルサイオウラシル(商品名チウラジール、プロパジール)と比べると効果があり、副作用の点でもより安全なので、妊娠以外では優先的に使われます。

ただメルカゾールには、妊娠5週から15週(特に気を付けなければいけないのは5週から9週)の間に服用すると、生まれてくる子どもの100人のうち5-6人ほどに、一般にあまりみられない形態異常が見られるという欠点があります。

因みに形態異常は滅多にないと思われがちですが、一般の妊婦さんが形態異常を持つ子どもを生む頻度は、内臓の異常など見つかりにくいものを除いても1000人に8~10人ほどです。そのうち薬で起こるものは非常に少なく、ほとんどは原因が不明です。

甲状腺機能異常

  • お腹の子どもの甲状腺は、妊娠20週ごろからホルモンを産生するようになる。
  • バセドウ病では、甲状腺を過剰に刺激するTRAbが胎盤を通り、妊娠後半に濃度が高いと、お腹の子どもに甲状腺機能亢進症を起こすことがある。
  • 抗甲状腺薬も胎盤を通過してお腹の子どもの甲状腺機能に影響する。
  • 母体に適切な治療をすれば胎児の甲状腺機能の異常を防ぐことができる。
  • 出産までTRAb濃度が著しく高いと、新生児が一時的に甲状腺機能亢進症になることがある。

TRAbは胎盤を通るので、子どもの甲状腺がホルモンを作り始める妊娠20週以降(妊娠後半)に濃度が高いと、お腹の子どもに甲状腺機能亢進症を起こすことがありますが、これは遺伝ではありません。後に述べるように、妊婦さんが飲む薬も胎盤を通るので、適切な量を飲んでいればお腹の中で自然に治療されます。

服用中は、母体を軽い機能亢進にするとお腹の子どもの甲状腺機能は正常ですが、薬で母体が甲状腺機能低下症になるとお腹の子どもも甲状腺機能低下症になるので薬を減量または中止します。

生まれるとお母さんからの薬が途絶えるので、TRAbの濃度がかなり高い場合には、これが消えるまで新生児が甲状腺機能亢進症になって治療が必要になることがあります。

新生児の甲状腺機能亢進症が起こるかどうかは、妊娠中のTRAbの濃度である程度予測することができます。

いずれにしても妊娠中に治療が必要な場合は、経験のある医師が関わる必要があります。

薬の安全な服用法

  • 妊娠5週から15週、ことに9週まではメルカゾールの服用をできるだけ避ける。
  • 母児の甲状腺機能に配慮して適切な服用量を決める。

形態異常への配慮

妊娠5週から15週、ことに5週から9週は、メルカゾールによる形態異常を避けるためにチウラジールやプロパジールか、場合によってはヨウ素にします。

ヨウ素は、お腹の子どもの甲状腺機能を低下させる作用が強いという誤解があって、あまり使われませんでしたが、実際には、子どもの甲状腺への影響は抗甲状腺薬より強くありません。また副作用がなく形態異常の原因にもならないという利点があります。ただし途中で効き目が落ちることがあるので、抗甲状腺薬が副作用で使えない場合や(バセドウ病の薬の副作用の項参照)、バセドウ病の程度が軽い場合によく使われます。また抗甲状腺薬の効果を助ける目的で一緒に使うこともあります。

5週を過ぎてから妊娠に気づくことが多いので、近々妊娠する予定がある場合もメルカゾールは避けておく方が無難です。
少量のメルカゾールで正常機能になっていて、TRAbも陰性に近ければ、中止して様子をみてよいこともあります。

妊娠初期にメルカゾールを飲んでも大半の場合は問題ないので、チウラジールやプロパジールの効き目が悪かったり、副作用がでたりした場合には、メルカゾールを使うこともあります。形態異常がみられてもメルカゾール特有のものでなければメルカゾールとは関係ありません。

いずれにしても主治医に妊娠の可能性がある、あるいは予定であることを申し出ておくことが大切です。

甲状腺機能への配慮

妊娠16週以降に治療を始める場合はメルカゾールが優先されますが、それまでチウラジールやプロパジールで治療していた場合は、副作用に注意しながらそのまま続けてもかまいません。
子どもの甲状腺がホルモンを産生するようになる妊娠20週以降は、お腹の子どもの甲状腺機能を念頭に置いて服用量を加減します。

お腹の子どもの甲状腺機能が低下しないようにする服用量は、母体を軽い甲状腺機能亢進症にする量です。
高血圧や糖尿病などがあって、甲状腺ホルモン過剰がこれらのリスクになる場合には、母体を優先した治療をします。その結果、お腹の子どもが甲状腺機能低下で出生しても、生後の回復が早いので問題ありません。ただし新生児の機能を観察することは必要です。

副作用で抗甲状腺薬が使えず、ヨウ素の効果も不十分になった場合は、妊娠中でも手術をします。
妊娠する前であれば手術かアイソトープ治療(放射性ヨウ素療法)を行います。治療後にTRAbが下がるので、お腹の子どもが甲状腺機能亢進症になる心配も低くなります。手術の方がTRAbが早く下がるので、近い将来妊娠を予定している場合にはアイソトープ治療より手術の方が合っています。

滅多にないことですが、手術やアイソトープ治療で治った後も、TRAbの濃度が高いとお腹の子どもが甲状腺機能亢進症になることがあります。その場合は、妊婦さんには必要のない抗甲状腺薬やヨウ素を飲んで治療をします。これにはかなり経験のある医師が関わることが必要です。

授乳

  • メルカゾールも、チウラジールやプロパジールも、服用しながら母乳で哺育できる。
  • 服用量や服用方法によってはすべて母乳でよい。
  • 服用量が多い場合は、服用から授乳までの時間を4~6時間以上あけるか分割して服用する方法がある。
  • 服用量が多い場合は乳児の甲状腺機能検査が必要。
  • ヨウ素で治療している場合も、乳児の甲状腺機能検査が必要。
  • どのような場合も授乳する前に搾乳する必要はない。

抗甲状腺薬は母乳中に分泌されますが、その量が少ないということで、チウラジールやプロパジールなら授乳してよいとされていました。しかし前にも述べたように、妊娠5~15週を除くと、バセドウ病の治療にはメルカゾールの方が優れています。
メルカゾール1錠(5㎎)に対してチウラジールやプロパジールは2錠(100mg)かそれ以上に必要で、特にバセドウ病が悪化しやすい産後は大量に必要とすることが少なくありません。そこで授乳する場合もメルカゾールが薦められるようになりました。

メルカゾールは1日2錠までなら授乳に制限は全くありません。最近は1日4錠でも構わないとされています。また6錠でも乳児の甲状腺に影響しなかったという報告もあります。
4錠以上の場合は1日2回に分けて飲むことにして、授乳したすぐあとに薬を飲むようにすればなお安全でしょう。

時間を空けずにお乳を欲しがったら、その時はミルクにしておくとよいでしょう。
そこで制限なしに授乳できるというわけにいかなくなることが予想される場合には、予め哺乳瓶に慣らしておくことが薦められます。

いずれにしても1日3錠以上服用の場合は、一度は乳児の甲状腺機能を調べて問題ないことを確かめてみて下さい。

チウラジール、プロパジールの場合は、1日6錠(300mg)までなら乳児への影響はないですし、それ以上でも問題ないとの報告があります。

ヨウ素で治療している場合の授乳も可能ですが、今はまだ安全性を確かめつつある段階なので、乳児の甲状腺機能を検査する必要があります。

どのような場合も、搾乳してから飲ませないといけないということはありません。

出産する産科

  • 治療しないで済んでいる場合は産科を選ぶ必要はない。
  • 抗甲状腺薬治療中でも、少量で甲状腺機能が安定していてTRAbが低い場合も産科を選ぶ必要はない。
  • 甲状腺機能が安定せず、大量の抗甲状腺薬を必要としている場合は、TRAbの濃度の如何を問わず甲状腺専門医にアクセスしやすい産科を選ぶ。
  • 出産までTRAbがかなり高値が続く場合は、小児科か新生児科との連携がたやすい産科を選ぶ。

妊娠中はバセドウ病が再発することはめったにありませんので、治った状態になっていれば産科を選ぶ必要はまずありません。少量の抗甲状腺薬で機能が安定していて、TRAb濃度が高くない場合も同様です。
ただし妊娠中は念のため定期的な甲状腺機能の検査は必要です。

以前はバセドウ病患者さんの妊娠・出産を扱うことをためらう産科がありました。「甲状腺クリーゼ」が恐れられたというのがその大きな理由でした。このごろは理解が行き届いて、受け入れない産科は滅多になくなりました。

新生児の甲状腺機能異常が予測される場合には、それに対応できる施設で出産することが必要です。

里帰り出産

治療中の人が遠方へ里帰りする場合、大量の抗甲状腺薬が必要だったり、機能が安定していなかったり、TRAbが高かったりしていたら、アクセスできる甲状腺専門医がその地域にいる必要があります。

不妊

  • 不妊の原因はいろいろあるが、特定できないことが少なくない。
  • バセドウ病が原因で不妊になることはない。

不妊の原因にはいろいろあり、以前はバセドウ病の人が不妊だと、バセドウ病のためだとされがちでした。
甲状腺ホルモン濃度が高い状態で妊娠すると、妊娠早期の流産が多く、それを不妊と思われていたことがありました。

実際にはかなり亢進症がひどくても妊娠する場合もあります。
バセドウ病だから妊娠しにくいということはありません。

甲状腺機能低下症と妊娠・出産

甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが不足している状態)の原因にはいくつかあります(甲状腺機能低下症の項へ)。橋本病もその一つです。原因が違っても、妊娠中の問題や、その対処法には共通点があります。

不妊

  • 甲状腺ホルモンの不足は不妊の原因になることがある

甲状腺機能低下症は不妊の原因の一つになることがあります。しかし人によって違いがあり、著しい甲状腺機能低下症の状態でも妊娠することもあります。甲状腺ホルモンの補充によってホルモンの不足がなくなっても妊娠しにくい場合は、ほかに原因があります。

妊娠中の甲状腺ホルモン

  • 妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増す

妊娠の初期から甲状腺ホルモンの必要量が増えます。出産したあとは、妊娠前の状態に戻ります。

流産・早産

  • 甲状腺ホルモンの不足は流産や早産の原因の一つになることがある

流産の原因はわからないことが少なくありません。また甲状腺に異常のない女性が妊娠した場合でも、はっきり流産とわかるものだけで10~15%ほどです。
甲状腺ホルモン不足のまま妊娠すると、流産になることが一般の女性より多くなります。甲状腺ホルモンを補って不足がなくなっていても流産した場合は、甲状腺とは関係ありません。

子どもへの影響

形態異常(奇形)

甲状腺ホルモンの不足も治療に使う甲状腺ホルモンも、形態異常を起こすことはありません。

子どもの甲状腺機能・知能

  • 通常は、妊婦が甲状腺機能低下症でもお腹の子どもが甲状腺機能低下症になることはない
  • 母親の甲状腺に異常がなくても、3000人に1人ほどの割合で生まれつき甲状腺機能低下症にかかっている
  • 通常は母親の甲状腺ホルモン不足が子どもの知能に影響することはない

母体が甲状腺機能低下症であるためにお腹の子どもも甲状腺機能低下症になっているということは通常はありません。

ただ大変まれに、血液中に甲状腺機能を低下させる物質(阻害型TSH受容体抗体)があって、そのために甲状腺機能低下症になっている場合があり、胎盤を通ったその物質がお腹の子どもに甲状腺機能低下症を起こすことがあります。この場合は、母親が妊娠中に適切な量の甲状腺ホルモンを服用していれば、甲状腺ホルモンが胎盤を通って子どもに届くので、あとは生まれてからその物質が赤ちゃんの血液中から消えるまで赤ちゃんが甲状腺ホルモンを飲めば問題ありません。

甲状腺に異常のない一般の母親からも、3000人に1人ぐらいの割合で、生まれつき甲状腺機能低下症に罹っている子どもが生まれます。脳の発達には甲状腺ホルモンが必要なのですが、生まれつき甲状腺ホルモンが作れない場合でも、生まれるまでは胎盤を通って子どもに供給されますので、あとは生まれたあとに十分な量の甲状腺ホルモンを飲み続ければ、脳の発達への影響はほとんど出ません。
因みにどこの産科でも出産して5日ほどで新生児の採血をして、甲状腺機能を調べます。そして甲状腺機能低下症が見つかった場合は甲状腺ホルモンの治療を開始するようになっています。

脳が正常に発達するために甲状腺ホルモンが必要なのは、生後3歳ぐらいまでですが、甲状腺ホルモンはからだの成長にも必要ですし、それを過ぎても新陳代謝に欠かせませんから、生まれつきの場合はその後も飲み続ける必要があります。そうすれば甲状腺に問題がない人と同じ状態で生活できます。

確かな証拠がないまま、「妊娠前半はお腹の子どもの甲状腺がまだホルモンを作れないので、母親の甲状腺ホルモンが少しでも不足していると子どもの知能が低下する」という誤った報告が海外からだされました。実際には、妊娠前半に母体の甲状腺ホルモンが著しく不足していた母親でも、その後甲状腺ホルモンを補充すると生まれた子どもの知能の遅れはありませんでした。

日本と違い、世界には甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素が不足しがちな地域が今でも沢山あり、ヨウ素不足が改善されたとされる国でも一部の人たちには不足があります。そのような地域ではヨウ素が足りないと母乳にも不足しますから、脳の発達に必要な時期に甲状腺ホルモンが十分作られないと脳の発達が遅れることがあります。

授乳

甲状腺機能低下症で服用している甲状腺ホルモンは、甲状腺から分泌しているものと同じです。授乳しても全く問題ありません。

治療

  • 妊娠してから低下症と判明したら、十分量の甲状腺ホルモンを開始する
  • 治療中に妊娠が判明したら早めに甲状腺機能を調べて必要なら服用量を増やす

妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増えるので、妊娠前からそれを考慮した量を服用します。

橋本病と妊娠・出産

  • 橋本病で甲状腺機能が正常な場合は、妊娠中、一般の女性と変わらない
  • 妊娠中に起こる問題は、橋本病による甲状腺機能低下症もほかの原因による甲状腺機能低下症と変わりない
  • 橋本病は、産後にしばしば甲状腺機能が変化する
  • 産後の変化はたいていは一時的で、自然にもとに戻る
  • 産後甲状腺機能低下症が長く続くことがある
  • 産後まれにバセドウ病になることがある

不妊

不妊の原因にはいろいろあり、また原因がはっきりしないことも少なくありません。橋本病の患者さんが妊娠しにくいと、甲状腺ホルモンの不足がなくても原因は橋本病だとされてしまうことがありますが、そういうことを裏付ける確かな実績はありません。

流産・早産

甲状腺ホルモンが不足したまま妊娠すると、流産の頻度が一般の妊婦さんより高くなりますが、これはほかの原因の甲状腺機能低下症と同じです。橋本病で甲状腺機能に異常のない場合に、流産や早産が多いというはっきりした証拠はありません。

お腹の子どもへの影響

形態異常(奇形)

橋本病が形態異常の原因になることはありません。

甲状腺機能異常

お母さんが甲状腺機能低下症であっても、「甲状腺機能低下症と妊娠・出産」のところで述べた例外的なもの(阻害型TSH受容体抗体)以外は、お腹の子どもの甲状腺に影響するものはありません。橋本病は血液の中に、抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体という抗体があり、これらは胎盤を通るので、生まれてしばらくお腹の子どもの血液中にみられますが、甲状腺機能低下症を起こすことはありません。

授乳

母乳を制限する必要は全くありません。

産後

産後は、甲状腺ホルモン濃度が変化することが少なくありません。これは橋本病の炎症が一時的に強まって起こる「無痛性甲状腺炎」のためです。橋本病では産後と関係ないときにも起こることがありますが、産後はよく起こります(無痛性甲状腺炎の項参照)。

無痛性甲状腺炎がよくみられるのは、産後の2か月から4か月の間です。甲状腺が前より大きくなり、甲状腺ホルモンの濃度が上がります。子どもの世話に気をとられていて気づかないことがありますが、著しい場合は動悸や息切れ、手の震えなどがあって、バセドウ病と間違われることがあります。

無痛性甲状腺炎で甲状腺ホルモンが過剰になるのは、甲状腺に蓄えてあった甲状腺からホルモンが漏れ出るためで、バセドウ病のようにホルモンの産生が盛んになることが原因ではありませんから、長くは続かず、遅くとも3か月以内には治まります。バセドウ病の薬は全く効きません。
甲状腺ホルモンの蓄えがなくなると、甲状腺機能低下症になることはよくあります。この時も甲状腺が大きくなります。これもせいぜい数か月で回復して、大抵は産後1年前後にはもと通りになりますが、長く続くこともあります。またまれに、バセドウ病になることもありますので、産後の定期的な検査は大切です。

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