- 甲状腺の結節は、現在の超音波で調べると成人女性の3.5人に1人、男性の6人に1人ぐらいみつかるほど多い。
- 自覚症状がないことがほとんど
- 大きさ、形、数はさまざま
- 甲状腺機能に異常があるものはまれ
- 治療(手術)が必要でないものがほとんど
- 良性のものと悪性のものがある(表1)
- 良性のものが悪性のものに変わることはない
- がんの中にも手術しないですむものがある
表1.甲状腺結節の種類
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良性 | 悪性 |
---|---|
腺腫 腺腫様甲状腺腫 嚢胞 自律性機能性結節 |
乳頭がん 濾胞がん 髄様がん 未分化がん 悪性リンパ腫 |
甲状腺は表面に近いところにあるので、結節を見つけやすい臓器です。
ほかの甲状腺の病気と同様、男性より女性に多く見つかります。
超音波検査の進歩で、2mmぐらいのものでも見つかるようになりました。
男女比
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甲状腺結節の種類 | 男女比 |
---|---|
バセドウ病 | 1:4~5 |
橋本病 | 1:10 |
良性結節 | 1:10 |
甲状腺がん* | 1:7 |
悪性リンパ腫 | 1:4~5 |
*未分化がんは1:3
種類別の特徴
- 良性結節
-
濾胞腺腫:甲状腺に1つだけある場合がほとんどです。超音波や細胞の検査をしても、濾胞がんとの区別が難しく、手術して初めて分かるということも少なくありません。そこで良性らしいものでも、ある程度の大きさになったら手術が勧められます。
腺腫様甲状腺腫:文字通り「腺腫のような甲状腺の腫れ」という病名です。腺腫とちがって結節は複数あることが多くその数がふえることもよくあります。沢山できると甲状腺全体が大きくなったようにみえたりします。一つの場合は腺腫様結節といいます。
嚢胞:結節の内容が液状になったものです。液だけのものは非常にまれで、結節の一部が液状になっていることがほとんどです。
自律性機能性結節:腺腫や腺腫様甲状腺腫のうち、甲状腺ホルモンを過剰に産生しているものを言います。日本には大変少なく、また程度も軽いので、甲状腺機能亢進症の症状もあまりありません。
- 悪性結節
-
乳頭がん:甲状腺がんのうち90%以上がこのがんです。細胞が乳頭状に並んでいるのでこのような名前がついています。乳がんとは全く関係ありません。進行が遅く、止まっているようなものもあります。そこで1cm以下のものは手術をしないで経過をみることも多くなって来ました。
濾胞がん:甲状腺がんの5%ほどがこのがんです。進行の遅いがんですが、手術が必要です。
髄様がん:甲状腺がんの1~2%ほどです。乳頭がんや濾胞がんよりは進行が早いがんです。手術をします。また4割ぐらいは遺伝性で、副腎褐色細胞腫を合併していることも多いので、よく調べる必要があります。
未分化がん:日本ではまれで、甲状腺がんの1%ほどです。ほとんどが高齢者です。進行が非常に早く、発見されたら早急に治療する必要がありますが、残念ながら今のところ予後不良です。乳頭がんは、高齢になってこのがんになることがありますが、大変まれです。
悪性リンパ腫:橋本病の甲状腺にまれに発生します。甲状腺から発生する悪性リンパ腫は、ほかの臓器から発生するものより治療によく反応します。
検査 (甲状腺の検査の項参照)
1.超音波検査
まず行うのは超音波検査です。甲状腺は皮膚から近いところにあるので、CTやMRIより超音波検査が向いています。CTやMRIは、甲状腺がんと分かった場合に、手術に備えて行います。
2.細胞診
超音波で結節を見ながら針を刺し、細胞のかたまりをとって顕微鏡で見る検査です(穿刺吸引細胞診)。良性か悪性か、その種類は何かを調べるために行います。外来で行います。ごく小さいものや、超音波で悪性でないと判断できるものにはやる必要はありません。
3.血液検査
良性結節の中に、まれに甲状腺ホルモンを過剰に作り出すものがあります。それを知るために、一度は血液検査をして甲状腺ホルモンの状態を調べます。甲状腺がんの手術後に転移があるか知るために測定します。
4.甲状腺シンチグラフィー
血液検査で甲状腺ホルモンが過剰だった場合に、結節が甲状腺ホルモンを産生しているかどうかを調べるために行います。カプセルに入った放射性ヨウ素を飲むか、放射性テクネシウムを注射して、結節に集まっているかどうかをみます。集まっていればホルモンを分泌している証拠になります。
治療
- 良性
-
甲状腺ホルモンを過剰に産生するもの以外は原則的には治療の必要がなく、経過をみます。ただし大きさによっては下記の1.2.で対応をします。
1.エタノール注入療法:超音波でみながらエタノールを注入する方法で、結節の大部分が嚢胞になっていて、大きくて気になる場合に行います。甲状腺ホルモンを産生している良性結節もこの方法で治療することがあります。
2.手術:結節が大きいために気管が曲がっている場合や、外から目立つので切除をして欲しいという場合に行います。またある程度の大きさになっていて、がんの可能性が捨てきれない場合も手術します。
3.アイソトープ治療(放射性ヨウ素療法):甲状腺ホルモンを産生している結節に行うことがあります。放射性ヨウ素には甲状腺に集まって、細胞を減らす作用があります。
- 悪性
-
1.手術:1cm以下の乳頭がんは手術しないで経過をみることがありますが、少しずつでも大きくなったり、ほかに広がっていたり、また血管の近くにあったりして、あとで手術しにくくなるものは手術をします。
濾胞がん、髄様がんは手術をします。
未分化がんは進行が早く、手術が相応しくない場合がほとんどです。悪性リンパ腫は手術しません。2.薬の治療
a.化学療法:悪性リンパ腫と未分化がんの場合に使うことがあります。
b.分子標的薬:化学療法で使う抗がん剤と違い、甲状腺細胞を標的にがん細胞の機能を抑える新しい薬剤です。手術のできない甲状腺がんに使います。薬物治療は年々進歩し、未分化がんも治る例も出てきました。3.アイソトープ治療:甲状腺がんで甲状腺全体を摘出した場合に、残っているがん細胞や転移した細胞に対して行います。