橋本病|甲状腺と病気の正しい情報ならチーム甲状腺

橋本病

  • 論文を書いた医師の名前が病名になった
  • 慢性甲状腺炎ともいう
  • 甲状腺機能低下症である場合があるが、正常機能の方が多い
  • 間違って難病のように思われていることがある

橋本病は、1912年にこの病気について詳しく報告した橋本策(はかる)医師の名前をとって名付けられた病気です。甲状腺に一種の炎症が起きていて、別名“慢性甲状腺炎”ともいいます。また自己免疫性甲状腺炎とも呼ばれ、血液中に自分の甲状腺の成分に対して反応する抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)がみられます(検査の項参照)。 甲状腺にはリンパ球が増えていて、甲状腺組織が変化していますが、その程度はごく軽いものから、細胞がかなり減っているものまで幅があります。
甲状腺疾患はどれも女性の方が多いのですが、橋本病は男女比が1:10かそれ以上というほど女性に多い特徴があります。女性は少なく見ても20人に1人ぐらいが橋本病です。

“橋本病”は、難病のようなイメージを持たれていることがありますが、これは誤りです。誤解の原因は、まだ橋本病について良くわかっていなかった1970年代に、厚生省特定疾患として橋本病調査研究班が結成されて研究が行われたことです。これがきっかけで、自治体が橋本病患者さんに補助金や見舞金を出すようになりました。その後、大半の自治体はこれをやめましたが、いまだに生命保険会社が加入を断ったり条件をつけたりするという不適切な扱いを受けることがあります。

橋本病の甲状腺機能

橋本病の人の甲状腺ホルモンの状態には次の3つがある。

  • 甲状腺ホルモンが正常(甲状腺機能正常)
  • 甲状腺ホルモンが不足(甲状腺機能低下)
  • 甲状腺ホルモンが一時的に過剰(無痛性甲状腺炎)

甲状腺機能が正常でもその後に低下することがある。
甲状腺機能が低下しても数か月で回復することがある。
無痛性甲状腺炎(後述)がおきると一時的に甲状腺ホルモンが過剰になる。

甲状腺機能正常

橋本病であっても、甲状腺の働きに異常がなく、甲状腺ホルモンに過不足がないことは少なくありません。しかし、初めは甲状腺機能が正常でも、その後に甲状腺機能低下になることがあります。その頻度は、10年間で女性の場合は約15%、男性の場合は約50%との報告があります。将来機能低下になるかどうかをはっきり予測する方法がありませんので、半年か1年に1回程度検査して調べます。甲状腺ホルモンの不足は、過剰(バセドウ病など)と比べると、治療を急ぐ必要はそれほどないので、甲状腺機能低下症の症状を特に感じなければ、頻繁に検査する必要はありません。

なお無痛性甲状腺炎(下記を参照)を起こして一次的にホルモンが過剰になることもあります。

甲状腺機能低下症

甲状腺の働きが低下して、甲状腺ホルモンの不足がある状態を甲状腺機能低下症といいます。橋本病の人すべてを検査すると、この状態になっている人はそれほど多くありません。甲状腺機能低下症の原因には橋本病のほかにもいくつかありますが(甲状腺機能低下症の項参照)、橋本病による低下症の場合は数ヶ月でよくなる場合もあります。

無痛性甲状腺炎

橋本病に無痛性甲状腺炎と呼ばれるものが起きることがあります。その場合、2、3ヶ月にわたり甲状腺ホルモンが過剰になった後、逆に一時的にホルモンが不足する時期を経て、最終的には自然に正常機能に戻ります。ホルモンが不足する時期を経ずに正常化する場合や、ホルモン不足が長く続く場合もあります。(詳しくは後述の「無痛性甲状腺炎」参照

非常にまれですが、橋本病からバセドウ病になることがあります。血縁にバセドウ病の方がいる場合は、他の人よりなりやすい傾向があります。

症状

  • 甲状腺機能が低下して甲状腺ホルモンが不足すると症状がでる
  • かなり機能が低下してもほとんど症状を感じないことも少なくない
  • 治療で甲状腺ホルモンが正常になっている場合の症状は橋本病が原因ではない

甲状腺機能が低下して甲状腺ホルモンが不足している時の症状は下記の通りですが、ホルモンの不足が軽い場合は症状がないことが少なくありません。著しい不足がある場合でも、個人差が大きく、症状がはっきりしないこともあります。また普通でもみられることのある症状ですし、甲状腺以外の原因で起きていることもあります。

橋本病であっても甲状腺機能が正常な場合は、何か症状があっても橋本病とは関係なく、甲状腺の治療は必要ありません。また、これらの症状が甲状腺ホルモンの不足によって起きている場合は、甲状腺ホルモンを飲んで血液中の甲状腺ホルモンが正常になれば、良くなります。

甲状腺ホルモン不足 の症状

  • 顔や手足がむくむ
  • 皮膚が乾燥する
  • 寒がりになる
  • 食事量が変わらないわりに体重が増える
  • 気力が低下する
  • 動作が鈍くなる
  • 始終眠い
  • 物忘れがひどくなる
  • ろれつが回らなくなる
  • 声がかすれる
  • 毛が抜ける
  • 便秘する
  • 月経の量や間隔が変化する

低下症の体への影響

甲状腺ホルモンの不足を治療しないでおくと、個人差はありますが、コレステロールの濃度に影響したり、肝臓や心臓のはたらきの異常の原因になったりすることがあります(甲状腺機能低下症の項参照

橋本病かどうかを知る検査

下記のものがそろっていれば橋本病です。

  • 甲状腺が大きくなっている
  • 甲状腺に対する抗体(抗サイログロブリン抗体または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が基準値を超えている

橋本病は、以前は甲状腺の組織を調べて橋本病に特徴的な所見があるかどうかで診断していましたが、今では血液検査で抗サイログロブリン抗体または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体があるかないかで診断できるようになっています。(甲状腺の検査の項参照)。甲状腺が大きくなっていて、血液中にこれらの抗体のどちらかあるいは両方がみられる場合に橋本病と診断します。因みに、これらの抗体は橋本病に甲状腺機能低下を起こすものではありません。

橋本病と甲状腺機能低下症の関係

  • 甲状腺機能低下症は甲状腺のホルモンが足りない状態をいう
  • 甲状腺機能低下症の原因にはいくつかあり、橋本病はその一つである
  • 橋本病で甲状腺機能低下症になるのは一部の人のみである

橋本病と甲状腺機能低下症は同じ意味だと思われていることがありますが、甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが不足している状態を言います。この状態を起こす原因にはいくつかあって、橋本病がその一つです。甲状腺機能低下症になる原因にはこのほかに、甲状腺の手術やアイソトープ治療(放射性ヨウ素療法)で細胞が減りすぎた場合、大量のヨウ素摂取をつづけた場合、生まれつきなどがあります(甲状腺機能低下症の項参照)(橋本病と甲状腺機能低下症は同じ病気?)。

甲状腺機能低下症の治療

  • 甲状腺ホルモンを服用する
  • 甲状腺ホルモンは空腹時に服用すると吸収がよい
  • 一緒に飲むと甲状腺ホルモンの効果が少し落ちる薬がある

現在のところ、甲状腺自体の働きを高めてホルモンの産生を増加させたりする薬はありません。
甲状腺機能が低下している場合には、不足分の甲状腺ホルモンを服用します。橋本病に伴う甲状腺機能低下症のなかには一時的なものもあるので、すぐに甲状腺ホルモンを開始しないで1、2か月様子をみてから判断することもあります。
すでに甲状腺ホルモンの服用を開始していた場合には、自然に回復するか判定しにくくなりますが、数ヶ月以内に薬が不要にならなかった場合には、自然に回復しなかったと判断されますので飲み続けます。

適切な量の甲状腺ホルモンを服用すると血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になりますが、これは薬を飲んでいるためですので、そのまま飲み続ける必要があります。

甲状腺ホルモンにはまず副作用はなく、適切な量が決まれば長期処方も可能です。空腹の時に飲むと吸収がよいので、起床時か就寝前に飲むことが勧められます。
甲状腺ホルモンと一緒に摂ると何か問題が起きるというような薬や食べ物はありません。ただ貧血に使う鉄剤、胃腸薬、コレステロールを下げる薬などには一緒に飲むと甲状腺ホルモンの効き目が多少落ちるものがありますので、薬剤師または主治医に相談してください。

甲状腺機能が正常の場合の通院・検査

  • 甲状腺機能低下症になっていないかを6ヶ月〜1年に一度ほど検査する
  • 妊娠したら甲状腺ホルモンの必要量が多少増すので、妊娠初期に検査する必要がある

もともと甲状腺機能が正常な場合や、甲状腺ホルモンで治療して血液中のホルモンが正常になっている場合でも、途中で甲状腺ホルモンが不足する場合があります。自覚症状がないことが多いので、6ヶ月〜1年に一度ほどの定期的な血液検査が必要です。途中で甲状腺機能低下症の症状を感じた場合も念のため受診して検査します。
妊娠すると甲状腺ホルモンの需要が少し増えることが多いので、甲状腺ホルモンの服用を開始したり、それまでの服用量を少し増やす場合もあります。

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎とは、甲状腺に一時的に起きる痛みのない炎症で、甲状腺に蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出ます。原因はわかっていません。血液中の甲状腺ホルモン濃度が高くなりますが、その期間はせいぜい3ヶ月です。その後、甲状腺ホルモンが足りない状態(甲状腺機能低下症)になったあと、自然に元の状態に戻ります。甲状腺機能低下症の期間も大抵は3ヶ月ほどですが、まれに長く続くこともあります。なお甲状腺機能低下症にならずに治ることもあります。

無痛性甲状腺炎がよくみられるのは橋本病の患者さんですが、そうでない人にも起こります。バセドウ病が治った状態の人に起こることもあり、バセドウ病の再燃との鑑別が必要となります。

どのような時に起きるか

よくあるのは出産後2~3ヶ月です。産後の無痛性甲状腺炎は、次のお子さんを出産した後にも起きることがあります。
出産と関係ない無痛性甲状腺炎の場合も、数ヶ月から数年後に再び起きたり、たびたび繰り返すことがあります。

症状

血液中の甲状腺ホルモンが過剰になると、それによる症状が出ますが(甲状腺ホルモン過剰による症状の項参照)、軽いときや期間が短いと、あまり症状に気がつかない場合もあります。
その後に起こる甲状腺機能低下症も一時的なので、かなりひどくても症状を感じないことが少なくありません(甲状腺機能低下症の症状の項参照)。
炎症の強い時期や甲状腺機能低下症になってTSHによって甲状腺が刺激されている時期には、甲状腺がいつもより腫れることがあります。

検査と診断

甲状腺ホルモン値(FT3,FT4)が高くなりますが、バセドウ病の時に見られる甲状腺を刺激する抗体(TRAb)は通常みられません。(バセドウ病とまちがえられる病気の項参照)診断が難しい時にはシンチグラフィでホルモンを作っていないことを確認しますが、通常は経過をみるだけで診断可能です。
甲状腺機能低下症の時期に受診された時には、通常の甲状腺機能低下症と診断されて、無痛性甲状腺炎の経過中で自然に治る可能性があることを見逃されてしまうことがあります。

治療

自然に軽快しますので特に治療はしません。バセドウ病の時に使う抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール/チウラジール)は効きません。脈が速くて動悸が気になる場合は、それを軽くする薬を使うこともあります。
また甲状腺機能低下症の時期に症状が強いときや、低下症が長く続く時には、甲状腺ホルモンを補う薬(チラーヂンSなど)を使います。
無痛性甲状腺炎の甲状腺ホルモンが多い時期に検査されず、甲状腺機能低下症で発見され、甲状腺ホルモンの補充が続いていることがあります。薬が必要なくなっているかもしれませんので、少量のチラーヂンSで安定している場合には、無痛性甲状腺炎だったかもしれないと疑ってみるのも良いでしょう。

特殊な橋本病―特発性粘液水腫

  • 甲状腺機能低下が著しく、甲状腺が小さくなっているものがある

まれに、甲状腺が小さくなり、甲状腺機能の低下が著しいものがあます。これを特発性粘液水腫と言い、橋本病の一種とされています。その一部の人の血液中に、甲状腺ホルモンの産生を抑える作用をする阻害型TSH受容体抗体と呼ばれるものがみられます。特発性粘液水腫に対する治療は、一般的な橋本病と同じです。

橋本病に合併する腫瘍

  • 悪性リンパ腫がまれに発生することがある
  • 悪性リンパ腫の発症は主に高齢者である
  • 橋本病に発生する悪性リンパ腫は薬や放射性治療がよく効く

非常にまれですが橋本病の甲状腺に悪性リンパ腫が発生することがあります。大抵は甲状腺が急にこれまでより大きくなってきて気がつかれます。ほかの甲状腺疾患より高齢者に多く、発症する平均年齢は60代です。甲状腺にみられる悪性リンパ腫は、ほかのリンパ腫に比べると薬や放射性治療でよくなりやすいのが特徴です。

ヨウ素(海藻)の摂取について

  • ヨウ素を大量に含んでいる食品(特に昆布)をとり続けると甲状腺機能低下症になることがある
  • 甲状腺機能低下症になっても大量にとり続けることをやめれば間もなく正常機能に戻る

ヨウ素は甲状腺のホルモンに欠かせない材料です。その一方で、大量にとり続けると逆に甲状腺ホルモンの産生をおさえてホルモンの不足(甲状腺機能低下症)を起こすという不思議な働きをします。ただし通常は、すぐに正常に戻るので問題ありません。ただ橋本病の人の中に、とり続けているあいだ甲状腺ホルモンの不足が続く人がいます。この場合は、大量にとり続けることをやめれば、間もなく正常な機能に戻ります。食物でヨウ素を多く含むのは海藻ですが、甲状腺機能低下症を起こすことがあるのは、海藻の中でも特にヨウ素が多い昆布です。しかし連日のように摂らなければ問題ありませんし、ほかの海藻はかなり大量に食べなければ影響ありません。(甲状腺とヨウ素の項参照甲状腺の疾患がある人は海藻を食べてはいけない?)。

日常生活

  • 注意することはほとんどない

橋本病では、著しい甲状腺機能低下症が続いて心臓などに影響がでているまれな場合を除けば、運動にも制限はなく、通常どおりの生活で問題ありません。甲状腺機能低下症でみられるような自覚症状を感じるようになった場合は、原因が違うかもしれませんが、念のため検査を受けてください。

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